講演 要旨 (2012年6月9日)


講 話:放射能の影響を正しく知る  〜遺伝子の構造と細胞が語る真実!!〜

国際IUPACフェロー 多比良 和誠 (佐世保高専3C S48年卒)

 生命が地球に誕生したのは、今よりはるかに自然放射線が高かった38億年前です。遺伝子(DNA)は体内の水や太陽光や放射線により傷つき(変異し)ますが、長い進化の過程で、傷を修復するメカニズムが確立されており、毎日、傷が修復されて元の正常なDNAに戻っています。しかし、被爆量が多いと修復が間に合わなくなるので、年間1,000~2,000ミリシーベルト放射線被爆するとガンになる確率が1.6倍ほど上昇します(ちょうど喫煙と同じレベルの害が生じます)。どの程度の被曝でどの程度の害が生じるかを認識すること、また、遺伝子(DNA)は意外に変異に強いことなどを知ることが大事なのですが、(核)化学の分野から医学の分野までをカバーできる学者がほとんどいなくて、正確な情報が一般市民に伝わっていないのが現状です(少し専門的になりますが、どうしてDNAはA,T,G,Cから構成されていているのにRNAはA,U,G,Cとわずかに構造の違う組み合わせが使われているかが理解できると、遺伝子{DNA}が変異に強い理由が分かるのですが、演者{多比良}が確認した限り理解している{日本の}学者は皆無でした)。

 また、「人体は約60兆個の細胞からできています」と書かれた本が多いのですが、実は、「体重1キログラムあたり約1兆個の細胞でできています」がもう少し正確な表現になります。ですから、「体重50キロの人は約50兆個の細胞でできており、体重70キロの人は約70兆個の細胞でできている」ことになるわけです。全ての細胞の中には細胞の設計図であるDNAが含まれていますが、上述したように、体内の(細胞内の)水に浸かっているだけでDNAは毎日変化していて、細胞の中の修復酵素が正しい元のDNA配列に修復してくれています。テレビを見ていますと「放射線だけがDNAを変化させる」と誤解しがちですが、実際は太陽光や体内の水もDNAを変化させているのですから放射線だけが悪者ではありません。また、毎回きちんと修復されているので過激な変異以外は問題ありません。細胞に最も害を与えるのはストレスです。ストレスは細胞に「死になさい(難しい言葉ではアポトーシス)」というシグナルを送ります。「ストレスで5キロやせた」ということは「アポトーシスで5兆個の細胞が死んだ」ということになります。「風評被害などでストレスをかけることが体に一番悪いこと」などを科学の言葉で語ります。


【基調講演】高専制度50年とこれからの高専50+(fifty plus)について

井上 哲雄 日本高専学会会長 鈴鹿高専OB教授S46年卒

 

 中学卒業後5年または7年一貫の創造的・実践的専門教育を行い、専門性の高い優秀な卒業生を広く社会に送り出してきた高専は制度創設から50年を迎えました。1962年の創設時とは経済・産業・金融などのグローバル化により社会は様変わりしています。また、わが国のお家芸である「ものづくり」拠点の海外移転や、それに伴う技術人材の海外流出に加え、地球の裏側で起きた異変が瞬時のうちに世界各地に伝わり、地球規模での事変に繋がるという「乱気流の時代」に直面しています。

 また、「高等専門学校のあり方に関する調査研究(20063月国立高等専門学校:みずほ情報総研)「高等専門学校教育の充実について」(200812月中央教育審議会答申)や「高等専門学校の役割・在り方に関する調査研究」(20103月国立高専機構:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、「モデルコアカリキュラム(試案)(20123月国立高等専門学校機構)」などに見られるように、高専教育の高度化・個性化・活性化などへの要望がますます強くなってきています。

 今後、少子化が一層進行することは必須であり、その中でさらに高専を発展させるためには、現状や課題を正確に把握して高専制度50年を振り返ると同時に、わが国における高専の役割やニーズを検証し、社会や地域の求める人材を養成していかねばなりません。そのためには今後の高専のあり方(高専50+)をしっかりと議論し、方向性を見定めていかねばならないと考えています。

 


【講演1】高専OBの産学官連携等で楽しくイノベーション

田中 勇次 和歌山高専特命教授「技術コンビニ」WAKA代表    技術士他 和歌山高専 S44年卒)

 

 高専育ちの私が、還暦を越えた今も高専OBの仲間と共に活動できることに感謝し、社会貢献を通じた多様な活動、多面的な展開の仕方を具体的に紹介したいと考えます。私は、現在、技術士(総技監・機械・建設)、ISO主任審査員、環境カウンセラー、EA21審査人、エネルギー管理士、中小企業アドバイザー、コーディネータ、商工会議所、商工会等の専門家、海外技術者研修の指導講師、企業の専門職や外部専門家・・・に加えて和歌山高専の特命教授を拝命させていただいています。【私の行動理念】楽しくイノベーションしながら寛恕(かんじょ)で傍楽(はたらく)縁(エン)ジニア【具体的考動スタイル】「技術とシステム」を創る企業と事業者のための技術経営コンサル及び「生きる」を創る個人・家族から経営者・事業者のためのライフコンサルと多様なニーズへの誠実な対応私自身が行なってきた活動から①組織を創る②プロセスを変革する<製造プロセス><イベントプロセス>③システムを創る④教育イノベーション(個人)⑤教育イノベーション(学校)⑥イノベーションのための活動の具体事例の説明のあと、和歌山高専の主要活動事例も紹介したいと考えます。そして特命教授としての「人材バンク通じた 高専OBの利活用事例」「高専OB企業技術者等活用プログラム」を通じて、OBによる学生教育及び事業社会への還元の仕組を説明します。次に、技術士としての産官学連携活動に触れながら、今後の産学官連携イノベーションに向けて私の活動実績をヒントに地域イノベーションで地場新産業創出を①研究交流会方式で仕掛ける②補助事業申請方式で仕掛ける③直接提案方式④社会貢献方式等の具体事例を説明して、高専OBの仲間の輪を広がられればと思います。 「技術コンビニ」WAKAは、和歌山の輪、人材ネットの輪、わかったと言ってもらえることを目指して開業しています。

詳細は、http://homepage1.nifty.com/conbiwaka/ 参照下さい。上の本、第4版が書店販売中ですが事前連絡いただければ著者割引持参します。合掌

 


【講演2】同窓会と母校との関わり 〜定年退職者と同窓会及び母校との関わり〜 

 小手川智 ウッディクラフト㈱代表取締役社長 鈴鹿高専42年工業化学科卒 同窓会会長

 

 鈴鹿高専は今年創立50周年を迎えます。これまでの45年を顧みると1. 同窓会組織はあるが活動をしていない状態が長く続いた。2. 30周年を迎える頃から同窓会長を再指名して活動を開始することになった。主に卒業式等式典への参加、会報の発行(会計報告)であった。40周年には卒業生、教官による産学の研究会(鈴鹿高専ヒューマン&テクノロジネットワーク)を立ち上げて今日まで技術交流会を年1回開催している。3. 50周年を機に定年退職者も出てきたことから同窓会組織の見直し、活動の活性化、学校を物心両面から応援をするとの機運が高まってきた。これからの数年が同窓会にとって大事の時と考える。

 


【講演3】二度目の卒業 〜早期退職と起業〜

畠中 豊氏 畠中環境カウンセラー事務所代表; (秋田高専 S47年卒 )

 

 長年に亘り、それなりに恵まれてもいたサラリーマン技術屋を卒業して、儲からない環境屋に転身(脱皮)しなければならなかった事情とは?脱皮を決断するまでの葛藤から、「環境旅行」を経ての確信、準備に向けての踊り場を経て、転身の実行に至るまでの過程を紹介いたします。 環境屋とは何か?また、55歳で環境屋に転身して自営業(フリーランス)となって以降、日々何をしてきたかについても、いくつかの活動事例や、それらから得たもの、そして何とか生活が成り立つ様になるまでのプロセスを紹介しながら、行き倒れにならないために役立ったいくつかのノウハウや知恵についても紹介いたします。

 


【シンポジューム発表1】

母校への殴り込み授業 〜高専への出前授業〜 「自立的に長期間の継続で順繰り技術伝承」

加藤 憲昭 豊田高専非常勤講師 NECソフト中部事業部長(豊田高専 S53年卒)

 

 「諸先輩から多くのことを教えていただいた。技術者だから、順繰り技術を伝承し続けていきたい。」  豊田高専情報工学科での非常勤講師に参加している当社メンバー4名のうち3名は豊田高専の卒業生です。企業ならではの「ソフトウエアエンジニアリング」の講義とグループ演習を教えています。 当社では、知名度の向上や新卒採用活動への好影響を実感しながら産学連携教育に積極的に取り組んでいますが、その本当の動機は、やはり教えることの楽しさにあります。特に私たちが諸先輩から受け継いだ知識や経験を、母校の後輩の皆さんに対して直接伝えるということは、本当に貴重な経験です。学生たちの真剣な眼差しを見ると、こちらも熱が入りますし、技術の伝承の一端を担っていることに心の底からやりがいを感じます。 私のメッセージを受け取った後輩の皆さんが将来大活躍することを夢見ながら、今後も業界の将来を担う人材の育成に、積極的に取り組んでいきます。OBだからこそ学生に順繰りの技術伝承が可能です。のである。

 


【シンポジューム発表2】

豊田高専におけるキャリア教育支援の取り組み 〜同窓会との連携について〜

兼重 明宏 豊田高専機械工学科教授   キャリア教育支援室長(大島商船 S60年卒)

 

 高等教育機関における学生のキャリア教育の現状やあり方について、様々なところで議論されており(1)~(3)、高専においては、就職、進学ともほぼ100%の進路を確保していますが、情報化、少子化、グローバル化といった社会情勢の急激な変化に対応した教育が必要となってきています。このことから中学校を卒業した学生に年齢に応じた適切な学習の動機付けを行い、目的意識を持たせ、高度な先端技術を身に付けさせるとともに、幅広い教養や社会性を身に付け、いわゆるコンピテンシー*を有する技術者として社会へ送り出すことが求められています。一般的に、高専のくさび形専門教育システムは、若年齢から専門技術に関しての優れた知識や才能を教授するシステムとして確立していますが、教養や社会性を育てるシステムやその支援体制が不十分であると指摘されています。また、社会から高専卒業生に対して、主体的に物事を進める能力として、行動力、実行力、コミュニケーション能力が強く求められています(2)、(3)。 これまで本校では、教務、学生および寮務主事のもと学生指導および学生支援を行ってきていますが、学生指導は各教員の力量や裁量に委ねられていた部分も多かったため、系統立てた組織的な学生指導が望まれていました(4)。 このことから、平成21年12月キャリア支援準備室を置き、本校におけるキャリア教育の検討を行い、平成22年11月キャリア教育支援室を発足しました。本年度(平成23年4月)から学生に対してキャリア教育支援プログラム(5)によるキャリア教育支援を始めましたので,これらの取り組みを紹介させて頂きます。

 

*「高い業績をコンスタントに示している人の行動の仕方などに見られる行動特性」と定義されている。参考文献等(1)中教審:キャリア教育・職業教育の在り方について(答申):平成23年1月(2)(社)日本経済団体連合会:グローバル人材の育成に向けた提言:平成23年6月(3)中教審:高等専門学校教育の充実について(答申):平成20年12月(4今徳義他:「やる気を引き出す授業の要点―自ら学ぶ意欲を育てるために―」、平成22年度高専教育講演論文集pp.121-124.平成22年8月(5)豊田高専キャリア教育支援プログラム http://career.toyota-ct.ac.jp/groups/career/

 


【シンポジューム発表3】

OB、そして教育後援会会長として

稲葉 正和  (財)愛知水と緑の公社 境川事業所所長(豊田高専 S53年卒)

 

  高専を卒業して28年、再び豊田高専と関わりを持つことになるとは夢にも思っていませんでした。 娘の高専入学が決まった3月のある日のこと、「教育後援会の理事になっていただけませんか?」と電話があり、家内の「承知しました。」との返事から教育後援会との関わりが始まりました。教育後援会って?PTAと何が違うの?電話をくださった方は学校事務の人?教育後援会について、ほとんど何も知らない状態で引き受け、「座っているだけでいいよ」との甘い言葉に乗って会長職に就くことに・・・。 28年間のブランクの間に豊田高専も大きく変わっていました。女子寮が存在するほど女子学生が増えたこと、海外留学に毎年30から40名の学生が行くこと、ロボコン以外にも、デザコン、プロコン、プレコン等の全国高専生が競う大会があることなど。 教育後援会は課外活動や各種アイデアコンテストへの助成、学寮運営の助成など主に経済的な支援を学校側と協力して行っています。 子どもたちのより良い学生生活を支援するために、とまどいながらも自分のOBとしての経験が少しでも生かせたらとの思いで、教育後援会の役員として取り組み、今年の5月まで6年間の任期を終えることができました。 娘が卒業にあたり「高専に来て本当に良かった」と言ってくれたことは、親としてOBとして本当にうれしい言葉でした。

 


【シンポジューム発表4】

高専OGが社会で戦うための心構え 〜男女共同参画推進にむけて〜

酒井綾子 ブラザー工業人事部(豊田高専卒)

 

 高専の卒業生には、技術者として活躍されている方、技術とは一見全く違う分野で活躍されている方、実に色々な経歴の方がいます。 活躍しているかは自信のないところですが、私は後者に属しており、企業の人事部で高専生の採用等の担当者として楽しく働かせていただいています。 日々どのような仕事をしているか、悩み、などなど、ざっくばらんにお話します。こんな人もいるんだな、と思っていただけるとありがたいです。