中学校から見た高専

太田達郎(東京都中央区立銀座中学校長)


 

 中学生にとって、自分の進路を自分自身が決め、自らの責任で新しい進路に踏み出すことは、これまでの15年間の生活の申ではじめての経験ともいえる。幼稚園や小学校を受験した経験のある生徒もいるが、発達段階から考えるとそのほとんどが自らの意志ではなく、保護者の思いによるものが多い。
 小学校の学習指導要領では、各教科・領域、総合的な学習の時間の内容に、キャリア教育という大きな視点から内容が明記されている。しかし、具体的な進路選択を視野に入れたものではない。

1 中学校の進路指導
 中学校の進路指導は、か学校での学びを踏まえ、学習指導要領の特別活動の第2各活動・学校行事の日韓及び内容の学級活動の2の(3)学業と進路にその内容が記されている。
その内容は次のとおりである。
 ア 学ぶことと働くことの意義の理解
 イ 自主的な学習態度の形成と学校図書館の利用
 ウ 進路適正の吟味と進路情報の活用
 工 望ましい勤労観・職業観の形成
 オ 主体的な進路の選択と将来設計
 各学校では、これらの内容を具体化した3年間を見通した全体計画を作成し、指導に当たっている。進路指導計画の例を示す。

【第1学年】
 自分自身の理解、職業や勤労の持つ意義や役割、様々な生き方、職業生活、社会生括等、将来の夢や希望を確認し、その実現に向けて努力することの大切さを理解させている。
○内容例
 自己理解、人と個性、職業と私、職業調べ、生き方を学ぶ、私の将来 等
【第2学年】
 1年の学習に基づき、職業につくまでの方法や課程を学ぶとともに、上級学校について知り、より明確な進路希望やその計画を立てさせている。
○内容例
 職業調べ、上級学校訪問、上級学校調べ、職場体験、進路情報の収集 等
【第3学年】
 自分の特性や適性に即した進路について理解するとともに、自分の志望する進路先について研究する。さらに高校等の進路先を決定し、その実現に向けて取り組ませている。
内容例
 高校等見学、進路講演会、進路希調査、体験入学参加 等
 このように、中学校では自己理解から始まり職草薮、勤労観の育成、自分の進路についての研究、進路決定など、単に進学先を決定するだけでなく、生き方にかかわる指導を学級活動、総合的な学習の時間、行事、教科指導等を通して計画的に行っている。こうした学習を通し、自らの将来への展望を持ちながら、卒業後の進路選択に直接結び付けていく必要があり、とても重要で重みのある内容となっている。しかし、具体的な卒業後の進路でとなる高校等の選択のための時間は、3年間の計画を見ると意外に少ない。
 進路選択は学校や家庭、地域の力が生徒に大きな影響を及ぼす。正しいく分かりやすい情報が十分に生徒に届くことが大切である。

 

2 都立高専への理解
 進路指導の申で、生徒が高専の存在を知るのは、高校等訪問で自分が行きたい進路先を調べるとき明会で、進路先の種類を説明するときであろう。高専は、ものづくりや工業関係に興味のある生徒にとって、とても魅力のある進学先である。さらに就聴や進学についても実績があり、プライドをもってしっかりと学習できる学校である。
 しかし、中学生の多くは、進路選択に当たっては高校に進学することをイメージしている。特にある程度の成績のある生徒は、普通高校という視点から学校の情報を収集している。職業系の高校を選択する生徒の多くは、自分の成績との兼ね合いで考える場合が多い。
 工業系については、ものづくりや工業に興味・関心が特に高く、将来の見通しがある生徒が第一志望とすることがある。中学校の学習において、ものづくりを通して学習する教科として技術・家庭科がある。しかしその時間数は、l・2年で年間70時間、3年生では35時間である。実際には、技術と家庭別々に授業を行うため、適時間に換算すると、それぞれ1・2年生が週l時間、3年生が過0.5時間となる。ものづくり立国日本を考えると寂しい限りである。
 高専については、生徒への情報が少なく教師が高専を取り上げ説明してはじめてその存在を知る生徒も多い。高専は5年間の就学であること、大学3年への編入学ができることは、選択の大きな要素となるはずである。
 こうしたことは文言の理解だけでは、中学生としては進路選択しにくいものである。しかし、例えば高等工業専門学校に進学した先輩等が、直接中学生に話をする機会を設けたり、高専の学生が中学校で作品等を展示したりすることで、中学生は親しみをもって理解し、具体的に進路の選択肢にしやすくなる。
 進路選択で1〜2名程度の希望者が出ることもあるが、学校生活の具体的なイメージがつかめないことや中学生の段階で5年後の進路まで考えることが乾しいことなどから、一度は高専という進路を選択の候補とした生徒も、実際の進路決定において受検まで至らないこともある。
 都立の場合を考えると、2006年にこれまでの都立工業高専と都立航重工業高専が、都立産業技術高等専門学校となったが、それまでの2校については、先輩等が行っている場合もあり、それなりに生徒も保護者も認知していたが、新しい高専の情報が十分に生徒も保護者に届いているとは言い難い。
 現在の保護者の年代には「都立高専、都立航空高専」といった方が、分かりやすい現状がまだある。さらに、都立高等学校そのものが、内容も受検方法も多様化しているため、高専を含めた情報を短時間で生徒が理解できるようにするためには、さらなる情報提供の工夫が必要である。


3 今後の誅薦
 今年第11回全国中学生創造ものづくり教育フェアの会場で都立産業技術高等専門学校の学生がロボット体験を行った。多くの中学生が体験に参加し、高専の学生が開発したロボットのすばらしさを休験した。中学生が直接高専の学生と接することば、高専の理解に役立つ。今後も中学校との学生の交流や情報提供をお願いしたい。高専の要項だけでは理解が進みにくい現状がある。また、都立高専が東京都教育委員の発行する入試案内や都立高校募集案内に付属的に取り上げられていることも残念である。実際に高専という意識をもって冊子の中を探さないと見つけにくい。
 多様な進路選択の重要な位置を占める高専は、中学生にとってインパクトのあるものであってほしい。今後、進路指導の充実改善を一層推進し、高校と同等の情報が生徒に届き、高専についての理解が深まるよう、中学校においても取り組んでまいりたい。

 

技術と教育 2011年3月号(技術教育研究会発行)より転載